11月の異名~日本の秋の呼び名とその意味~
日本には、各月ごとに風情ある異名が数多く存在します。11月も例外ではなく、日本人の美意識や季節の移ろいに対する感受性を反映した豊かな異名がいくつも存在します。今回は、11月を表す六つの異名「神楽月(かぐらづき)」「神帰月(かみがえりづき)」「建子月(けんしげつ)」「黄鐘(こうしょう)」「霜月(しもつき)」「仲冬(ちゅうとう)」に注目し、それぞれの由来や意味についてご紹介していきます。
神楽月(かぐらづき)~神々の舞が響き渡る季節~
「神楽月」という呼び名は、11月に全国の神社で行われる神楽(かぐら)に由来します。神楽とは、古くから日本で行われてきた神事の一つで、神様を楽しませるための舞や音楽を奉納する儀式です。11月は、収穫を無事に終えた後、感謝を込めて神に捧げる「新嘗祭(にいなめさい)」が行われることが多く、神楽もその一環として捧げられるため、11月は「神楽月」と呼ばれるようになったといわれています。
古くから神楽は、収穫を祝うだけでなく、豊作や安泰を祈る大切な神事とされ、地域によっては伝統的な舞や太鼓の音が響き渡ります。神々が舞い降り、村人たちと共に一年の豊かさを祝う姿を想像させる「神楽月」は、日本の信仰文化を表す美しい呼び名です。
神帰月(かみがえりづき)~神々が故郷へ戻る月~
「神帰月」は、出雲から全国の神々がそれぞれの故郷に戻る時期を表した呼び名です。旧暦10月は、出雲以外の地域では「神無月(かんなづき)」と呼ばれるのに対し、出雲では神々が集う「神在月(かみありづき)」とされ、全国から出雲へと神々が集まります。11月になると、神々はそれぞれの神社へ帰っていくため、「神帰月」と呼ばれるのです。
この呼び名は、神々の旅路や、信仰と共に暮らす日本人の心情を映し出しています。神々が再びその土地に帰ってくることで、守護が強まり、人々が来年も豊かに暮らせるよう見守ってくれるという考えが根付いています。「神帰月」には、見えない存在を信じ、感謝しながら共に生きてきた日本人の姿が浮かび上がります。
建子月(けんしげつ)~陰陽五行説と神秘的な月の呼び名~
「建子月」は、陰陽五行説に基づく呼び名です。陰陽五行説では、宇宙のすべての現象が木・火・土・金・水の五行に分けられ、それぞれに陰と陽があると考えます。11月は五行でいう「建(けん)」にあたり、11月は「建子(けんし)」とされています。「建子月」という名前には、11月を新たな気が立ち上る月とみなす意味が込められており、来年への準備期間であることも象徴しています。
この呼び名には、古代中国の思想に基づく「時」の捉え方が感じられます。五行における「建」は物事が始まる兆しを示し、12月の「閉(へい)」が終わりを意味することと合わせ、11月が新しいサイクルの準備段階として重要な意味を持つことがわかります。「建子月」という言葉には、陰陽五行説の神秘と、それを受け入れてきた日本の思想が色濃く反映されています。
黄鐘(こうしょう)~古代の音階から生まれた月の名~
「黄鐘」という呼び名は、古代中国の音律から由来しています。中国の十二律(音階)において、黄鐘はその最初の音とされ、物事の始まりや根源を象徴する音です。11月はこの「黄鐘」の名を冠し、暦の始まりとしての意味も込められています。これは中国から伝来した思想が影響し、日本でも使用されるようになりました。
黄鐘は新たな気が生まれる音として、古代の宮廷音楽や儀式の中で特別な音とされてきました。季節の変わり目を感じ、やがて訪れる冬を迎える11月にこの「黄鐘」が当てられたことで、音を通して季節や自然とつながる美しい情景が浮かびます。このように音と暦が融合する文化は、古代の日本でも重んじられ、音律と季節の連動が独自の風情を感じさせる呼び名です。
霜月(しもつき)~霜降りの季節を表す素朴な異名~
「霜月」は、11月に見られる霜が降り始める時期にちなんだ名前です。霜が立ち込め、草木に銀白色の輝きをもたらす光景を象徴しており、寒さが増し、冬の足音が聞こえてくる季節の到来を感じさせます。古くから日本では、霜が降り始めると冬支度が始まり、人々は寒さに備えて暮らしを整えてきました。
このように、霜という自然現象が月名となったことは、昔の日本人が自然と寄り添い、季節ごとの変化を敏感に感じ取りながら生活していたことを物語ります。霜月という言葉を通じて、冷たい空気の中で息づく生命の力強さや美しさを感じられるでしょう。
仲冬(ちゅうとう)~季節の移ろいを示す中間点~
「仲冬」という呼び名は、暦における冬の中間地点を意味します。冬は、立冬(11月上旬)から立春(2月上旬)までの期間を指し、仲冬はその真ん中に位置します。仲冬は、寒さが本格化しつつある時期で、冬の厳しさを感じながらも、どこか落ち着いた静けさが漂う季節です。
日本の暦では、季節を「初・仲・晩」と分けることがあり、冬もまた「初冬」「仲冬」「晩冬」と表現されます。仲冬の11月は、冬の始まりから徐々に深まっていく過程を体現しており、季節の中間地点としての意味が込められています。自然が静かに冬の訪れを待つかのような「仲冬」の響きには、奥深い静寂の美しさが漂います。
季節と呼び名に込められた日本の美意識
11月を彩る六つの異名「神楽月」「神帰月」「建子月」「黄鐘」「霜月」「仲冬」は、日本の豊かな自然や信仰、暦を通して築かれた文化が反映されています。これらの異名は、ただ月を指すだけでなく、日本人の季節に対する感受性や、自然と共に生きる姿勢を感じさせるものであり、古来から日本人がいかに自然に寄り添って暮らしてきたかを物語ります。
現代では、こうした異名を耳にする機会は少なくなりましたが、それぞれの月の名前に触れることで、季節の移り変わりをより深く感じられるでしょう。ぜひ、11月の異名を通じて、日本の美しい秋の風情を味わってみてください。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。「あ、こんな言葉があるのか」と、楽しんでいただけたら幸いに思う、今日この頃です。